日本の農業にも大きな影響
この4月末、石油元売各社は「バイオガソリン」の販売を首都圏の一部で開始し、地球環境へ配慮した代替燃料として普及が期待されているのが「バイオエタノール燃料」です。
バイオエタノール燃料とは、トウモロコシやサトウキビなどを発酵させて作ったエタノール(エチルアルコール)を、自動車などの燃料に石油ガスやガソリンと混合して使います。作物は成長過程で二酸化炭素(CO2)を吸収するため、一方的にCO2を出す石油や石炭などの化石燃料のように、地球温暖化を招かないとされています。
今回発売されるのは、大手石油メーカーなどでつくる石油連盟の取り組みで、バイオエタノールと石油ガスを混合した「ETBE」と呼ばれる液体燃料をガソリンに混ぜたものです。バイオエタノールの比率は3%となります。
バイオエタノール燃料には、この他にブラジルやアメリカなどで行われているガソリンに直接混合する方式があり、環境省は、ガソリンにバイオエタノールを直接混合したバイオ燃料の実証試験を8月から大阪府で開始する予定です。
ETBE方式がいいか直接混合方式がいいかは、議論の分かれるところです。ETBE方式は既存の製油所の施設が流用でき、導入が簡単なのですが、将来バイオエタノールの混合率引き上げるときには技術的に難しいという問題があります。一方、直接混合方式はかなりの追加投資が必要になり、業者の負担が増えるという意見があります。
こうしたバイオエタノールの増産は、早くも世界の食料生産へ影響を与え始めています。メキシコでは主食となるトルティーヤの原料であるトウモロコシが値上がりし、国民のデモにまで発展しています。日本でも5月1日から100%のオレンジジュースが値上がりしましたが、これもオレンジの主要産出国であるブラジルなどで、バイオエタノールの原料になるサトウキビを作るため、オレンジ畑が次々とつぶされているためだそうです。また、6月からは、マヨネーズの値段が引き上げられます。これも、バイオ燃料への供給にシフトしたため、主に使用する菜種油や大豆油などの価格が、1.5倍以上に高騰したためです。
こうした世界的な動きに呼応して、エネルギーの国内需給率を確保し農業の再生に役立てようと、農水省は「バイオ燃料地域利用モデル実証事業」を創設しました。これは、1.原料供給者、バイオ燃料製造事業者・供給事業者等からなる地域協議会における活動(バイオ燃料普及啓発等:定額補助)、2.バイオ燃料製造施設・供給施設等の整備(補助率1/2)、3.バイオ燃料製造施設等における技術実証(定額補助)のプログラムからなり、5月11日に募集が締め切られました。
相当数の地方自治体が応募したものと思われますが、毎日新聞に福岡県築上町の事例が掲載されていました。バイオ燃料が日本の農業を大きく変えるかもしれません。
バイオエタノール:築上町の「水田」を「油田」に 今年度中に工場建設/福岡
毎日新聞(2007/5/11)
◇米から製造 休耕田の有効利用にも期待
築上町は5月10日、農水省の「バイオ燃料地域利用モデル実証事業」に応募した。国の補助を受け、休耕田で栽培した米を原料にエタノールを製造するプラントを約75億円で町内に建設する構想だ。町によると、応募は九州で同町のみ。「水田を油田に」を合言葉に、九州のバイオエタノール製造拠点を目指す。
町の農地は全面積の約17%の約2000ヘクタールで主力は稲作。だが、90年に約2500戸あった総農家数は、05年に約1700戸に減少。07年度の転作率は41%に上る。町は、米作をエネルギー産業に転換することで、耕作放棄地の解消や水田の保全、農業後継者の育成が期待でき、地球温暖化防止にも貢献できると着目。3月に、地元JAや九大など産学官19団体で町バイオ燃料地域協議会を設立。4月末には製造主体の「有限責任中間法人日本バイオマス築上センター」を発足させるなど構想を進めている。
計画によると、07年度中に製造プラントを同町湊に建設し、08年度に商業運転を開始。一方で、10アールで720キロの収穫が可能な多収量米「西海203号」の作付けを町外にも呼びかけ、順次拡大する。11年度には、年間7万2000トンの西海203号から3万キロリットルのエタノール生産を目指す。原料米7万トン超の調達には県内全域(約2万5000ヘクタール)に生産を広げる必要があり、地元調達体制が整うまでは安価な輸入米(ミニマムアクセス米)を利用する方針。
バイオエタノールを巡っては、原料のトウモロコシなどの穀物が高騰し世界的に問題視されているが、米は国内の休耕田で栽培するため市場へ影響を与えないという。町企業立地課は「原料米の確保やエタノールの販売価格などの面で課題は多いが、日本の農業再生のモデルとなるべく頑張りたい」と話している。