4月10日、政府・与党は財政支出15兆4000億円、事業規模56兆8000億円となる過去最大の追加経済対策を正式に決定しました。
雇用・金融・環境・地域活性化など多岐にわたる対策で経済の底割れ回避・危機克服をめざします。同時に将来の成長に向けた低炭素革命など中長期的な成長戦略にも取り組みます。政府では、こうした対策によって2009年度の実質GDPを2%程度押し上げる効果があると試算しています。
新たな経済対策を、国民の目線から具体的に見てみたいとおもます。
雇用対策:セーフティネットの一層の強化
- 雇用保険を受給していない離職者が職業訓練を受ける間、生活できるように、月10~12万円の給付と貸付け(上限8万円)を行う「訓練・生活支援給付」制度を創設します。(3年間の緊急措置)
- 住居をなくし資金を持たない離職者等へのつなぎ資金(10万円以内)や、就職活動を行う間の住宅手当(最大6 か月間)・生活資金融資(最大1年間)を創設します。(住宅手当は当面1年間の緊急措置)
- 自治体による既存建物の借上げ方式を推進し、緊急一時宿泊施設を拡充します。
- 従業員を解雇せず、休業等により雇用の維持に努める企業への助成金(雇用調整助成金)を充実し、解雇等を行わない企業や障害者に関する助成率の引上げ(2/3補助を3/4補助に、中小企業は8割補助を9割補助に)や、残業を大幅に削減し、解雇等を行わない企業へ1人当たり最大45万円を支給するなどにより、ワークシェアリングに取り組む企業を支援するほか、年間支給限度日数の撤廃などを行います。(雇用調整助成金の拡充:財源6,000億円)
- 派遣先による中途解除に伴う損害賠償の確保や、派遣会社の要件の厳格化等により、安易な派遣切りの防止など派遣労働者の保護を強化します。また、妊娠・育児休業等の取得を理由とする解雇等の不利益取扱いへの相談対応や、内定取消しを行った企業名の公表等を行います。
金融対策:約42兆円の追加金融対策
- 信用保証協会が行う緊急保証の保証枠を20兆円から30兆円へ拡大します。
- 日本政策金融公庫が行うセーフティネット貸付の融資枠を9兆円から12兆円へ拡大します。また、商工中金が行う融資枠(危機対応)を0.9兆円から3.3兆円へ拡大します。
- 政策投資銀行・商工中金が行う長期資金貸付枠(危機対応)を2兆円から10兆円へ拡大します。
- 政策投資銀行が行う保証枠5兆円を創設します。また、中小企業基盤整備機構が主として中堅企業向けに行う債務保証制度の保証枠2兆円を創設します。
- 産業活力再生特別措置法に基づく出資円滑化のための日本政策金融公庫の損害担保制度を出資枠2兆円について創設します。
- 日本企業が行う海外事業を支援するため、国際協力銀行(JBIC)が3兆円相当の融資や保証を追加実施します。
- 今年から導入した過去最大規模の住宅ローン減税に加え、住宅ローンの借り入れを容易にするため、住宅金融支援機構を活用して頭金なしで住宅ローンを借りられる10割融資を実施するとともに、民間金融機関が行う住宅ローンに対して機構が100%保険でカバーする制度を導入します。
新3種の神器(太陽光パネル、エコカー、省エネ家電)の普及
- 全国3万2000校の公立小中学校等への太陽光パネルの設置をはじめとしたエコ改修、デジタルテレビ、パソコン・校内LAN等のICT環境の整備、耐震化を、3年間で集中的に進めます。(「スクール・ニューディール」構想の推進)
- ハイブリッドカー等の環境対応車を新車で購入した場合、今年4月から導入した減税に加え、1台10万円を助成します。さらに、13年を超えて使用している古い自動車をスクラップし、一定の燃費基準を満たす新車に買い替えた場合、1台25万円を助成します。(財源3,700億円、250万円のハイブリッド車を新規購入した場合、17万円減税+10万円の助成)
- グリーン家電(省エネ型のエアコン、冷蔵庫、テレビ)の購入時に、購入価格の5%相当分のエコポイント(他の製品を購入できるポイント)を付与し、地デジ対応テレビについてはさらに5%上乗せし10%付与します。また、リサイクルの場合は、3品目ともリサイクル料金相当分を上乗せします。(財源2,946億円)
医療・介護
- 地域医療を再生させるため、2次医療圏単位の中期的な地域医療再生計画を策定し、地域の医療機関や医療従事者による連携体制を構築した地域に、基幹となる医療機関の機能強化(人材、施設、設備の集中)、域内の医療機関の役割分担に伴う機能転換(例えば急性期病院から回復期リハ病院へ)、産科・小児科などの個別診療科ごとの地域連携パスの構築、医師派遣システムの強化などの支援を行います。(地域医療再生交付金3,100億円の創設)
- 患者が少ないなどの理由で開発が進まないがん・小児等の未承認薬について、3年間集中的に治験・審査を行い、国内がん患者等が早く合理的な価格で使用できるようにします。(財源800億円)
- 流行から半年以内に全国民分のワクチンを生産できる、世界最高レベルの新型インフルエンザワクチン生産体制を整備します。(財源1,300億円)
- 介護分野へ就労を促進し、人手不足の解消を図るため、介護職員の処遇改善やスキルアップの取組を行う事業者に対し、今年10月分から、1 人当たり平均月額1万5千円の給与引き上げに相当する金額を助成します。(財源4,000億円)
- 緊急性の高い特別養護老人ホーム入所待機者の解消に向けて、約16万人分を目標に助成や融資を行い、介護施設や地域介護拠点を緊急に整備します。(財源3,300億円)
子育て・教育
- 子育て応援特別手当を第一子まで拡充し、小学校就学前3年間(3歳~5歳)のお子様のいる家庭に対して、平成21年度に限り、お子様1人当たり36,000円を支給します。
- 待機児童の解消に向けて、安心こども基金(1,000億円)に、1,500億円を追加し、借上げ方式で保育所を設置する場合の賃借料に対する補助の拡充等を行うとともに、併せて自治体負担の軽減を行うことで、平成22年度までに15万人分の受入れ体制整備を確実に実現できるようするとともに、地域の子育て力の向上を図ります。
- 子宮頸がんと乳がんの検診の無料クーポンを配布します。(子宮頸がんについては20才、25才、30才、35才及び40才、乳がんについては40才、45才、50才、55才及び60才の女性の方を対象)
- 母子家庭の母親が看護師、介護福祉士等の資格修得期間中に生活費を助成する制度を拡充し、月額10万円を14 万円(非課税世帯)に引き上げるとともに、今後3年間に就学している方について、資格修得期間の後半のみから全期間へと助成対象を拡大します。
- 家計の急変を理由に修学が困難になった高校生・大学生を対象に、授業料減免と奨学金の緊急支援を行います。高校生への緊急支援のため、各都道府県に基金(3年分・500億円)を創設します。大学生に対する緊急採用奨学金の貸与人員及び奨学金返還猶予者の拡大を行います。
21世紀型インフラ整備、税制、科学技術
- 首都圏空港の機能を拡張します。羽田空港において、平成22年10月末(再拡張)以降に就航が予定されている夜間の長距離国際線について、C滑走路を延伸することにより、大型機の運航を可能とします。首都圏からの国際線を3年以内に一日100便(年8万回)増便可能とします。首都圏国際ハブ空港実現のための総合的な調査を行います。
- 三大都市圏環状道路のミッシングリンクを緊急整備します。(三大都市圏環状道路整備率:53%(H19年度)→69%(H24年度))
- 1日あたりの平均利用者数が5千人以上の鉄道駅(全国残り約900)について、平成22年までに原則全駅をバリアフリー化します。また、ホームドアの整備も推進します。
- 高齢者の資産を活用した需要の創出を図るため、平成21年から2年間の時限措置として、住宅の取得資金の贈与を父母や祖父母から受けた場合、この期間を通じて、従来からの非課税枠に加え500万円まで贈与税を課さないこととします。
- 中小企業の活動を支援する観点から、交際費課税について、定額控除限度額を400万円から600万円に引上げ、損金算入できる範囲を拡充します。
- 研究開発税制について、法人税額の落ち込みに伴い税額控除できる金額が少なくなり、その効果が損なわれることがないよう、平成21・22年度における税額控除の限度額を法人税額の2割から3割へ引き上げるとともに、平成21・22年度に控除しきれなかった金額を平成24年度まで利用可能とします。
- 世界をリードする研究者が研究に専念できる「研究者最優先」の新しい制度を創設し、総額2,700億円程度の研究開発投資を新たに行います。あわせて、5年間で1.5~3万人規模の若手研究者や大学院生等の海外派遣を行います。
地方、農林漁業
- 公共事業等の追加に伴う地方負担の軽減を図り、地方公共団体が国の施策と歩調を合わせ、地域における公共投資を円滑に実施することができるよう、各地方公共団体の負担額等に応じて交付金(1.4兆円)を交付します(平均して地方負担分の9割を軽減)。
- 地球温暖化、少子高齢化への対応、安全・安心の実現、その他将来に向けた新たな事業を積極的に実施できるよう、使い勝手のいい交付金(1兆円)により地方自治体を支援します。
- ばらばらの農地を面的にまとめる取組を加速化するため、農地を貸し出す所有者に交付金を交付する(3,000 億円)など、農林水産分野で1兆円規模の対策を講じます。
- 首都圏近郊等を中心にスギ300万本を今後3年間で伐採し、広葉樹や花粉の少ないスギ等に植え替えるとともに、スギ花粉症緩和米の開発・実用化を急ぎます。