最近、様々な学校関係者や児童・生徒の保護者から“発達障害児“に対する相談を受ける機会が増えています。2004年に公明党などがリードする形で「発達障害者支援法」が成立。2010年には、「障害者自立支援法」が改正され、「発達障害」が精神障害の枠組みの中に明確に位置付けられました。こうした法整備の中で、発達障害に対する認知度や理解が急速に広まっていることも実です。
学校現場でも、特別支援教育の充実や教職員への啓発活動により、発達障害を持つ子供たちへの対応は徐々に進んでいます。一方、学年主任や教頭、校長など学校幹部への研修などが進んでいないため、対応に差が生まれてしまっている事例が報告されています。朝礼などの席上、注意欠陥多動性障害(ADHD)の児童を、数頭が多くの子供たちの面前で厳しく注意したなどの具体例でご相談を受けたりしています。
発達障害者と共に生きる社会、地域をどのように構築していくか、その視点をまとめてみたいと思います。
発達障害児童・生徒は普通学級に6.5%
発達障害の児童・生徒は、通常クラスに6.5%いるといわれています。1クラスに1人は、在籍しているという計算です。
発達障害者支援法では、①広汎性発達障害(自閉症やアスペルガー症候群など)、②学習障害(LD)、③注意欠陥多動性障害(ADHD)など3つの類形を発達障害と定義しています。
「広汎性発達障害」の人は、相手の気持ちを読み取ったり、自分の気持ちをうまく相手に伝えることができません。いわゆる阿吽の呼吸、暗黙の了解をなかなか得ることができません。
また、自分の考えに強く固執し、融通がきかないのも特徴です。こだわりの考え方やそれに基づく独自の行動パターンをもっていて、好きな物事には異常なほどの興味を持ちますが、そうでない時には、全く関心をもたないという傾向性も強くあります。
「学習障害」は、知的水準が低いレベルではないにもかかわらず、うまく成績が伸びない人です。決して怠けているのではなく、勉強しようとしてもうまくいかないのです。
「注意欠陥多動性障害」の人は、集中力や注意を持続することができません。忘れ物が多かったり、大事な予定を簡単に忘れてしまいます。また、いわゆる“キレ”やすい子供も、この障害を持っている場合が散見されます。一寸したきっかけで、自分をコントロールができなくなってしまいます。
こうした発達障害は、個々の状況で様々組み合わされて発症することも多いのが特徴です。
また、研究の段階で、発達障害の定義それ自体も変化しているのも事実です。
今年5月1日の朝日新聞の報道では、アメリカ精神医学会診断基準が19年ぶりに改訂され、この基準にはアスペルガー症候群との項目が削除されると伝えられています。今後、アメリカではアスペルガー症候群は「自閉症」の一症状として診断、治療が行われるということです。
発達障害と親の育て方には直接的な因果関係はない
発達障害と向かい合う時、最初に確認しなければならないポイントは、「発達障害と親の育て方には直接的な因果関係はなく、脳の機能障害が原因である」ということです。医学的に、発達障害は低年齢のうちに生じることがわかっています。協調性に欠けたり、キレたりする子供たちをみて、「親の育て方や、学校での教育が悪いから、子どもが発達障害になってしまう」という考えは、明らかに誤りです。発達障害と親の育て方には直接的な因果関係はありません。
2012年12月、文部科学省は、「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする調査」とし、統計を発表しました。これによると、発達障害の生徒は、小中学校の普通のクラスに6.5%存在するとしています。特別支援学校や特別支援学級に属する生徒、統計に反映されていない生徒がいることを考えると、約10人に1人が発達障害だともいわれています。
児童・生徒の約一割が発達障害かもしれない、との認識で、社会地域での受け皿整備を進めていかなければなりません。
アインシュタインやエジソンも発達障害者だった!
発達障害の人は、周囲の人たちとの人間関係がうまくいかなかったり、キレてまれに暴力をふるったり、奇声を発したり、孤立してしまうケースが多々あります。しかし、頑固で自己主張が強くても、他人には真似できない素晴しい仕事をすることもあります。研究者や芸術家として、めざましい成果を上げている人をたくさん挙げることができます。アメリカでは、アインシュタインやエジソンはADHDだったと言われています。この二人の在存で、私たち人類はいかに多くの恩恵を受けているか、あえて説明の必要はありません。発達障害の人たちが社会の中にうまく受け入れられれば、大きな力を発揮することを確認しておきたいと思います。
発達障害者への誤解と偏見が生んだ大阪地裁での仰天判決
発達障害が社会的に広く認知されていく中でも、大きな驚きをもって受けとめられたのは、昨年(平成24年)7月30日の大阪地裁でなされた裁判の判決でした。この事件は事件当時42歳であった男性が、実の姉を刺殺したものでした。犯人の男性が、小学生時代より30年以上も ひきこもっており、アスペルガ一症候群と診断されていました。地裁の判決は「残された遺族が被告人との同居を望んでおらず、社会の中でアスペルガー症候群に対応できる受け皿も用意されていないから、法で許される限り長期間刑務所に収容することが社会秩序の維持に役立つ」と述べました。その上で、検察求刑の16年を上回わる、殺人罪の有期懲役刑の上限である20年の極刑が言い渡されました。司法の場での「社会に受け皿がないから、刑務所に入れておけ」との判断は、誠に稚拙で残念な判決でした。
幸い今年2月、大阪高等裁判所は「アスペルガ一症候群である被告の受け皿はある」として、一審判決を破棄して、懲役14年を言い渡しました。司法の良識が何とか守れた結果です。
量刑の問題もさることながら、刑務所の中で、発達障害に者の受刑者をどのように矯正させていくか、そのプログラムを整備する必要もあります。
発達障害者への支援体制整備、5つの課題
こうした発達障害者(児)の基本的な視点を踏えた上で、茨城県の発達障害者への支援体制の課題をみてみたいと思います。
課題の第1は現状把握です。普通学級に6.5%という文科省の統計をもとに、この数値を茨城県の児童生徒数に当てはめると、小学校で10,160人、中学校では5,185人と推計されます。しかし、県独自の統計資料は在存しません。診断自体が難しい発達障害ですし、学校での調査は個人情報の保護の問題もあり、独自調査は困難であると説明されています。しかし、現状の詳しい分析なしには、しっかりとした対応策が打てるはずがありません。次に述べる早期発見のため検査対体制の充実と合わせて、実態把握に努める必要があります。
課題の第2番目は、早期発見体制の整備です。発達障害は幼少期に始まることが多くあります。しかし、3歳の時にわかる例もあれば、学習障害のように幼稚園や小学校に入って始めてわかる場合もあります。日本では母子保健法で1歳半健診と3歳健診が義務づけられています。この時に専門医の健診体制を充実させるべきです。また、茨城県では5歳児を対象に「子どもの気になる行動確認マニュアル」を保護者に配布しています。その結果、落ち着きがないなどの「気になる行動」が見られる幼児については、保健所の保健師と心理士が保育所などに出向き、保護者や職員に、子どもの特徴を捉又た具体的な関わり方について指導を行うなど、療育支援に努めています。
私は、5歳児で適切なスクリーニングを実施することができれば、より正確な発達障害の診断ができると考えます。鳥取県や栃木県では、全市町村において5歳児健診をすでに実施しています。茨城県でも早期の導入を強く求めます。
第3の課題は、地域に発達障害の相談窓口を整備するということです。茨城県では、全県的な発達障害の拠点施設として「茨城県発達障害者支援センター」を平成16年のオープンさせました。発達障害者支援センターでは、社会福祉士や臨床心理士などの職員が、発達障害のある方や保護者等からのご相談に応じ、専門的な発達検査や療育支援等を行っています。また、本人の状態に応じた就労支援や、教育機関・福祉施設などの関係機関との連絡調整、障害についての研修会などを開催しています。県議会公明党も、支援センター開設には大きな役割を担ったと自負しています。
このような施設が、少なくても各医療圏毎に必要です。厚生労働省は、現在、各地に「子ども発達センター」(仮称)を作ろうと動き始めています。ここの専門職員に、幼稚園や保育園に出向いてもらい、早期発見に努めてもらう。保護者の相談窓口として、家族が一丸となって子どたちの発達障害に対応する体制を作ることなどが目的です。また、地域社会に対して、発達障害への誤解と発見を取りのぞくため啓発事業の拠点として期待されています。
第4の課題は、学校での支援体制です。小・中学校に在籍する発達障害のある児童生徒に対して、担任教師一人だけで十分な支援を行っていくことは非常に困難です。現在茨城県では、小・中学校において、発達障害等のある児童生徒の学校生活を支援するために、特別支援教育支援員を配置する制度が設けられています。県内では小・中学校478校に、873名の支援員が配置されています。その効果的な活用が重要です。出来るだけ早く、すべての公立学校に特別支援教育支援員を配置すべきです。
さらに重要なのは、教員の発達障害への理解を深める研修の実施が必要です。新卒採用の教員から教頭、学校長に至るまでの系統だった研修カリキュラムを設定し、継続的な教育の実施が望まれます。
5番目の課題として、発達障害のための専門的な教育施設の設置です。徳島県では、日本初そして唯一の「発達障害がある生徒」に特化した特別支援学校が昨年度開設されました。徳島県立みなと高等学園です。この学校のイメージは「職業訓練校」に近いものがあります。カリキュラムは、「商業ビジネス科」「情報デザイン科」「生産サービス科」「流通システム科」に分かれています。この学校では、単に技術だけの習得を目指すのではなく、人と接する学習にも重点を置いて、社会で他の人たちと一緒に働くスキルを身につける経験を大切にしています。こうした特別支援学校が、ぜひとも茨城県にも欲しいところです。