海上自衛隊護衛艦に医療コンテナを搭載:三重・尾鷲港沖で広域訓練
8月31日、政府は南海トラフ巨大地震に備えた広域医療搬送訓練の一環で、大規模災害時の医療拠点としての役割が期待される災害時多目的船(病院船)の導入に向けた実証訓練を三重県尾鷲港沖で初めて実施しました。これには病院船建造を推進する超党派議員連盟(衛藤征士郎会長=自民党)が視察に訪れ、公明党から横山信一参院議員が参加しました。この実証訓練は、公明党が主張して実現したものです。
病院船は、医療機能と被災者輸送などの機能を備えた自己完結型の総合拠点。米国やロシアなどが保有しており、スマトラ島沖地震などの際も活用されました。日本でも、従来は陸路が中心だった災害時の患者の搬送経路を海路にも広げることで、災害医療機能の向上が期待されています。
31日は南海トラフの巨大地震によって、愛知、三重、和歌山の3県に甚大な被害が発生したことを想定し、広域医療搬送に関する総合的な実働訓練を実施。洋上医療拠点として、コンテナ式の医療モジュール(陸上自衛隊野外手術システム)を搭載した海上自衛隊輸送艦「しもきた」を三重県尾鷲港沖に停泊させ、陸上自衛隊の衛生隊と広島県の災害派遣医療チーム(DMAT)などがチームを組んで、「しもきた」への患者搬送や応急処置、安定化訓練を行いました。模擬患者として、重軽傷者や慢性疾患患者など複数の症例を想定。医療モジュールの活用可能性や陸上の医療機関との役割分担、船内の医療関係者の指揮命令系統の在り方などを検証しました。
横山氏は、着艦したドクターヘリから患者が搬送される様子や医療モジュール内の手術行為など一連の訓練風景を視察しました。
1995年の阪神・淡路大震災を教訓にして、海上保安庁と海上自衛隊は、手術台や病床などの機能を持った船を複数隻保有していた。だが、民主党政権下で発生した東日本大震災では、縦割り行政が壁となり、これらの船は物資輸送で使われただけでした。
「しもきた」は「おおすみ型輸送艦」の第2号艦。艦橋の第1甲板レベルに手術室、歯科診療室、集中治療室(2床)、病床(6床)を備えています。スマトラ沖地震直後の国際緊急援助隊派遣の後、2005年6月には「しもきた」の車両甲板上で陸上自衛隊の野外手術システムを展開する技術試験が行われました。2006年度には野外手術システムの電源を艦内から取るための改装が順次行われ、複数の野外手術システムを展開して、医療機能をさらに増強できるようになりました。
公明党は災害時に命を守る有効な手法として「病院船」の整備を他党に先駆けて訴えてきました。海路からの医療支援を検証する事業については、今年3月22日に公明党災害時多目的船検討プロジェクトチームが政府に要請。5月13日の参院予算委員会でも横山氏が主張しました。
一方、政府は2012年度の病院船に係る調査結果において、民間船舶などの既存船舶を活用した実証訓練を行うことも有効な方策の一つと指摘しました。
(1)病院船の新造の場合
1.費用
建造費:140~350億円/隻、維持・運用費:9~25億円/年。また、災害時の迅速対応に最低2隻必要(280~700億円)。
2.導入の課題
迅速対応・長期派遣が可能な多数の医療スタッフ(病床500→医師等500人)の確保が必要等。
3.平時活用の可能性
船舶の装備・仕様の相違等から、離島巡回医療船、国際青年交流船等の平時活用の可能性は低い。
(2)既存船舶に医療モジュールを搭載する場合
民間船舶をチャーターし、医療モジュール(急性期医療対応型)を搭載した場合に、モジュール購入費、チャーター費で18億円。この場合も、医療スタッフの確保等の課題。
(3)総括と今後の方向性
・ 病院船の建造は、建造費、維持・運用費に莫大な金額を要する見込み。また、医療スタッフの確保等の困難な問題が多数存在。
・3つの類型の病院船のうち、急性期病院船は、民間旅客船や自衛艦等の既存船舶(+医療モジュール)の活用により費用の縮減が可能となり、導入に向けた検討に最も値する。
・当面、既存船舶(+医療モジュール)を活用した実証訓練を行い、課題を検証することも有効な方策。

2014年度予算概算要求には、民間船舶を活用した医療機能の実証訓練の予算が計上されています。訓練後、内閣府の西村康稔副大臣は記者団に対して「今回の成果を次のステップに生かしたい」と語りました。