2016年10月2日、「日立で辿るカンブリアへの旅」展で行われた、5億年前の地層を発見した田切美智雄茨城大学名誉教授のギャラリートークです。
「茨城県北芸術祭」の応援イベントでもあるこの企画は、日立を訪れる方や市民の皆さんに、日立市の地下は「ものすごい事になっている」ことを広く伝えるために開かれました。日本で最も古い、5億年前の地層は日立市に露出しています。言い換えれば、日本列島の原点は日立ということもできます。
茨大田切名誉教授が、2008年に日立市小木津町で日本最古の地層を発見
茨城県日立市から常陸太田市にかけての山地で、日本で最も古い約5億年前の地層(日立鉱床)が発見されています。
この地層を日立市小木津町の山中で最初に発見したのは、日立市郷土博物館特別専門員で茨城大学名誉教授の田切美智雄さんです。
地質学の研究を続けてきた茨城大学理学部の田切名誉教授は、2008年、日立変成岩の一部が約5億600万年前のカンブリア紀の地層であることを発表しました。それまで日本最古とされてきたのは岐阜県のオルドビス紀(約4億9000万~4億4000万年前)の地層でしたが、この発見で、日本列島が出来上がってきたと言われるパンゲア大陸よりも、さらに前のゴンドワナ超大陸時代からの日本列島の成り立ちがわかるのではと期待されています。日立のこの地層は、当時中国大陸の縁の海底にあったものです。これほど広範囲の古生代の地層は他にはなく、日本列島の始まりはこの地域だったのではないかと推測されます。
2014年になって、東京大学大学院工学系研究科の加藤泰浩教授、独立行政法人海洋研究開発機構海底資源研究開発センターの野崎達生研究員、鈴木勝彦上席研究員らは、レニウム-オスミウム年代決定法を用いて、日立鉱床の生成年代はカンブリア紀(4億8540万年前~5億4100万年前)であり、日本列島最古の地層であることを明らかにしました。日立市から常陸太田市にかけての山地には古生代・カンブリア紀の地層が約50平方キロにわたって広がっていることが証明されました。
日本列島は、日立から始まった!
茨城で発見された5億年前の地層から、日本列島誕生の秘密が分かります。現在、地球上には、ユーラシア、北アメリカ、南アメリカ、アフリカ、オーストラリア、南極大陸の6つの大陸があります。しかし、5億年前の地球は違います。南アメリカやアフリカ、オーストラリア、南極大陸などを含めた、ゴンドワナ大陸という超大陸があったと考えられています。このゴンドワナ大陸が分裂することで、現在の6大陸が生まれました。つまり、大陸は同じ場所にあるのではなく、少しずつ動いているのです。
大陸の移動は、地球科学の分野でプレートテクトニクスと呼ばれています。地球はプレートと呼ばれる固い岩板で作られていて、このプレートは対流するマントルに乗って互いに動いているという学説です。この学説に従えば、今回発見された地層と同じ地層を持つ地域と、茨城県は繋がっていたのではないかと考えることができます。
その繋がっていた可能性がある地域とは、中国東北部やロシアの極東部。どちらからも、約5億年前の地層が見つかっています。つまり茨城県は、ゴンドワナ大陸の東の端にあった火山地帯であり、それが日本列島の始まりではないかと考えられるのです。
その後、2億4000万年前ごろに茨城県は新しい大陸バンゲアの一部となり、そこに海底の移動とともに運ばれた堆積物と陸から運ばれた岩石などがはり付きました。その一部が地底の奥深くで圧力と高温で固められ、日本列島の土台になったと考えられます。そして、約2500万年前に大陸の縁が割れ始め、2000万年前ごろに日本列島の原型が形作られたのです。
茨城県で発見された地層が作られた5億年前は、古生代・カンブリア紀に分類されます。この時代には「カンブリア大爆発」と呼ばれる現象が起きました。その現象とは、アノマロカリスやオパピニアなど非常に奇妙な姿をした生物が大量に現れたこと。まだ、この地層からは、このような物の化石は確認されていないので、今後の調査での発見が大いに期待されています。