2023年11月21日、映画「ある町の高い煙突」を制作した松村克也監督が、メガホンを取った映画『祈り 幻に長崎を想う刻』が、バチカンで上映されました。その模様を、“バチカンニュース”が伝えました。
参考:バチカンニュース
映画『祈り 幻に長崎を想う刻』(松村克弥監督、2020年)の上映会が、11月21日、バチカンのフィルモテーカ(フィルム・ライブラリー)で行われた。
同作品は、1959年、第6回岸田演劇賞、第10回芸術選奨文部大臣賞を受賞した田中千禾夫の戯曲「マリアの首 幻に長崎を想う曲」を映画化したもので、原爆投下から12年が過ぎた1957年、戦争のまだ深い傷跡の中で「戦後」に向けて歩み出そうとする過渡期の長崎を幻想のうちに描いている。
映画では、原爆投下で瓦礫と化した浦上天主堂に残された聖母マリア像の頭部を、天主堂が完全に取り壊される前に運び出そうとする2人の女性を中心に、様々な登場人物たちのそれぞれの「戦後」を通して、当時の社会の様相を垣間見せながら、その背後を覆う戦争の不条理、原爆の恐ろしさを、取り除くことのできない重い現実、歴史として突きつけている。その中で、被爆マリアの像のまわりに集まる人々の平和への強い思い、命ある限りつながれていく祈りがこの作品の全編を貫いている。
上映会で、千葉明・駐バチカン特命全権大使は、原爆による人々の犠牲を通じて、人類が戦争の不条理さを学んだならば、どれほど人々の心に叶ったことでしょうか、と話しつつ、残念ながらウクライナや中東に見るように、いまだこの教訓を学びきれない状況の中、この作品の上映はさらに重要な意味を持つと話した。
上映会には、松村克弥監督、城之内景子プロデューサーはじめ、日本の関係者による使節が参加した。松村監督は、上映後の挨拶で、この作品は日本が第二次世界大戦で敗北した10年後、日本が戦後の絶望的な荒廃から奇跡の高度経済成長をスタートさせた時期の物語であり、戦争を忘れていく人、幼少で戦争自体をよく知らない世代が現れ、被爆国、日本でも戦争の記憶が消えていこうとする時、被爆マリアを戦争の記憶、長崎の傷として、社会の底辺の人たちが持ち去ろうとするストーリーを描いた、と語った。
そして、松村監督は、作品の中で原爆症を負った一人の登場人物が叫ぶ「戦争ほど悲惨で残酷なものはなか。原爆落とす前に戦争そのものば無くしたか!」という言葉を、この映画のテーマとして示し、「私は知恵も力もなく祈ることしかできないけれど、それでもひたすらに平和を祈っていきたい」というさだまさし氏による主題歌のメッセージを伝えていきたい、と話した。
この上映会に合わせ、教皇フランシスコが原爆のシンボルとして深い思いを寄せられ、同作品中にも登場する写真、「焼き場に立つ少年」を陶板にしたものが、関係者より教皇庁に寄贈された。
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1945年8月9日11時02分・・・、広島に次ぐ二発目の原子力爆弾が長崎市に投下され、約7万4000人が一瞬にして命を奪われた。
東洋一の大聖堂とうたわれた浦上天主堂も被爆し、外壁の一部を残して崩壊。聖堂にあったマリア像は、焼けただれた頭部だけが残された。
時を経て、復興の兆しが見えはじめた長崎では、日米国交の妨げとなる浦上天主堂の残骸を撤去するか、被爆遺構として保存するかで、市民と行政のあいだで議論を呼んだ。
そんな中、「被爆マリア像」と名付けられたマリア像の頭部が、忽然と姿を消した……。
この事実に触発されて、劇作家の田中千禾夫は、1956年に戯曲「マリアの首-幻に長崎を想う曲-」を上演した。廃墟と化した浦上天主堂に置き去りにされた「被爆マリア像」を盗み出す信徒の女たちと、戦争や被爆体験に苦しみながらも、新たな一歩を踏み出す人々の姿を詩的に、時に哲学的に描いた作品は、岸田演劇賞、芸術選奨文部大臣賞を受賞。唐十郎や野田秀樹ら多くの演劇人にも影響を与えたといわれ、現代演劇の金字塔として戦後演劇史にその名を刻んだ。
そして、終戦から77年を経た現在--あの戦争を肉声で語る世代は、次第に失われつつある。そんな時代にこそもう一度、戦争の愚挙や悔恨を後世に語り継ぐために、『マリアの首』は新たな生命を吹き込まれ、映画『祈り-幻に長崎を想う刻(とき)-』として生まれ変わった。
監督は、劇映画のみならず、数多くのドキュメンタリーで手腕を振るう、松村克弥。“人間爆弾”と呼ばれた特攻機「桜花」に乗り込んだ若者たちの過酷な青春を描いた『サクラ花-桜花最期の特攻』や、日立鉱山の煙害問題を扱った新田次郎原作『ある町の高い煙突』で見せた、ジャーナリスティックな視点とより卓越した洞察力で人間ドラマを紡ぎ、傑作戯曲の映像化を実現させた。
キャストには、隠れキリシタンの末裔で、戦争で深い傷を負った人々を癒す、看護婦であり娼婦というふたつの顔を持つ鹿を、高島礼子。爆心地で自分を犯した男への復讐を誓いながら、闇市で詩集を売る忍には、黒谷友香。信仰心を抱きながら、対照的な生き方を歩むふたりのヒロインをそれぞれが演じる。忍の夫で、原爆症への差別に怯えながら隠遁生活をつづけ、自らも戦争で犯した罪の意識に苛まれる桃園には、田辺誠一。そのほか、寺田農、柄本明、村田雄浩、藤本隆宏、温水洋一、金児憲史、馬渕英里何、宮崎香蓮という、ベテラン勢から個性豊かな顔ぶれが揃い、重層的な人間ドラマを織り上げている。さらに、美輪明宏が「被爆マリア像」の声を演じ、神秘的な趣をもたらしている。
主題歌には、長崎市出身のさだまさしが「祈り」(アルバム「新自分風土記Ⅰ~望郷編~」より)を提供。奇しくも、曲中のコーラスパートは、再建された浦上天主堂で長崎市民コーラスの方々の協力を得て収録されている。
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