
近年、地震や豪雨、台風などの自然災害が相次ぎ、日本各地で多くの人々が避難生活を余儀なくされてきました。とりわけ高齢者や障がいのある方、乳幼児連れの世帯など、特に配慮が必要な方々にとって、災害時の避難生活は、命の危機に直結するほど深刻な状況です。
こうした中、2025年5月28日、被災者支援の充実を目的とした「災害対策基本法」および「災害救助法」の改正案が、参議院本会議で可決・成立しました。今回の改正の最大の特徴は、これまで災害法制の中で十分に位置づけられていなかった「福祉サービスの提供」が、初めて明確に法文に盛り込まれたという点にあります。
〔災害救助法 第19条の3〕
都道府県知事等は、福祉サービスを提供することができる。
前項の福祉サービスの提供に当たっては、要配慮者の特性に応じ、災害により心身の機能が低下することを防止し、又はその機能の回復を促進するように努めなければならない。
この条文により、災害時における「福祉」は、単なる補助的支援ではなく、命を守るために必要不可欠な「公的サービス」としての位置づけが与えられました。

具体的には、介護福祉士や社会福祉士などの専門職で構成される「災害派遣福祉チーム(DWAT)」が、避難所のみならず、自宅や車中で避難している方々のもとへ直接支援に向かうことが制度上可能になります。これにより、災害関連死のリスクを大幅に減らすことが期待されています。
また、今回の法改正では、「被災者援護協力団体」の登録制度も創設されました。これは、NGOや福祉団体、医療関係者、弁護士などの「専門性」を有する民間団体をあらかじめ国が登録し、災害時に市町村が必要に応じてこれらの団体に被災者の個人情報を提供することで、より迅速かつ的確な支援につなげるという新たな仕組みです。
さらに、災害対応の司令塔となる「防災監」の新設や、食料・トイレ・簡易ベッドといった備蓄物資の状況を年1回公表することを自治体に義務づけるなど、実効性のある災害対応体制の強化も盛り込まれました。
これらの法改正は、公明党がこれまで一貫して訴えてきた「災害時にも人間の尊厳を守る支援のあり方」を、実際の法制度に落とし込んだ成果でもあります。2024年3月には、参議院予算委員会での公明党議員の質問に対し、岸田首相(当時)が「法改正を検討する」と初めて答弁したことが、今回の法整備へとつながったのです。
大阪公立大学大学院の菅野拓准教授は、「この改正は災害法制にとって実に大きな変化だ。福祉的支援が行き届けば、助かる命が確実に増える」と評価しています。
法制度は整いました。今後は、DWATの体制強化や、登録団体の拡充、自治体職員への研修といった“平時からの備え”を進めていくことが求められます。
「命と尊厳を守る防災」の実現に向けて、わたしたち一人ひとりができること──それは、地域の中で支え合う意識を育て、福祉と防災が一体となった社会を築く努力を日々重ねていくことに他なりません。