全国のケーブルテレビ(CATV)の加入世帯で、NHK衛星放送(NHK-BS)の契約をめぐるトラブルが相次いでいます。
現在、CATV各社では、「衛星放送普及のために」というNHKの要請から、NHK-BSを有料チャンネルの扱いせずに全加入世帯に配信しています。NHK-BS以外の民間の有料放送(WOWOWやスカパーなど)にはスクランブルが掛けられ、契約なしには視聴することはできません。しかし、NHK-BSは契約の締結を求めるメッセージは表示されるものの、放送自体は観ることができます。
NHK側はこれを営業に利用して、「NHKの放送を受信できる受信設備を設置した者は、協会と受信契約を結ばなければならない」という放送法32条を盾にとって、「観る観ないにかかわらず、NHK-BSが受信できる環境が整っているのだから、契約は義務である」と契約を強要するケースが増えています。
衛星放送契約をめぐるトラブルは、NHKと委託契約して受信契約を開拓している「地域スタッフ」が加入世帯を訪問した際に多発しています。地域スタッフは、ケーブルが引き込まれている世帯を見つけては訪問して契約を結ぶよう求めて営業成績を上げようとしています。朝日新聞などの報道によると、「ケーブルテレビに加入すれば自動的に衛星放送の受信料を支払わなければならない」「衛星契約を結ばないと、ケーブル放送をやめられる」「衛星契約を結ばないと法的手段を執られる」などと、間違った説明を受けた加入者もいるということです。
こうした状況の中、兵庫県堺市のNHK元経理担当職員が昨年2月、受信料の支払い請求を凍結するよう求める訴訟を起こしました。「NHK-BSは見たくもないのに受信料を高く設定するのは契約の自由の侵害だ」と主張しました。原告は、民間のBS放送のように希望者でなければ視聴できないスクランブル化を導入するか、BS受信料そのものを撤廃するまで、受信料の支払い請求そのものを凍結するよう求めました。
昨年11月、大阪地裁堺支部で判決が下され、谷口幸博裁判長は「放送法に基づき、視聴する意思の有無にかかわらず、受信設備があれば受信料負担を義務づけるのは、受信料制度の趣旨との関連において著しく不合理であることはない」とし、衛星契約への変更義務はないとした原告の訴えを退けました。さらに、判決では、BS契約の追加負担(月額945円)について「海外のスポーツの試合やニュース、映画を視聴できることから、とりたてて高いとは言えない」と指摘。技術的な受信環境があることだけでBS契約を義務づけるのは、受信料を財源に公共放送を運営する制度に照らして「一つの合理的な方法」と、NHK側の主張を大幅に認めました。
NHK受信料をめぐるトラブルは、そもそもその根拠法となる放送法自体が、時代の流れに合っていないことに起因します。
その一例がCATVやマンションやビルの共同受信の普及です。加入者の意思とは関係なく、受信環境が整ったことで、NHK側と加入者側の思惑に食い違いが出てしまっています。
直接、この問題とは関係ありませんが、普及がめざましいワンセグ放送やカーナビなどのNHK受信には、全く放送契約を必要としていません。考えてみれば、これを大きな矛盾です。
昨年11月、総務省の研究会は、「引っ越しやテレビの買い替えなどで受信可能になっても、BSを受信していない場合は、地上契約を継続できるような措置を講じるべきだ」との意見を取りまとめました。BS受信料のあり方は、受信料見直し論議の中で焦点の一つになりそうです。
朝日新聞の報道では、座長を務める舟田正之・立教大学教授(経済法・情報法)は「国民に基本的情報を提供するという公共放送の役割は地上放送で果たされている。衛星放送はスクランブル化して報道、文化などで付加価値のある質の高い番組に特化し、希望した人が視聴する有料放送にするべきだ」と話しています。
公平負担のための受信料体系の現状と課題に関する研究会「取りまとめ」
2007/11
衛星受信料体系についての検討
(1)①及び②に例示した受信者(衛星放送を受信することのできる共同受信施設やCATVの利用者など)は、衛星放送を受信することのできる受信設備の一部(アンテナ等)の設置に関与していないにもかかわらず、衛星放送を受信することのできる受信環境が整備された状況に置かれたものである。言い換えれば、外部環境の変化によりいわば自動的に「衛星放送を受信できる受信機を設置した者」という受信規約上の契約者種別に、形式的に、分類されたものである。
従前は地上契約を締結していたこれらの受信者が外部環境の変化により自動的に受信規約上の「衛星放送を受信できる受信機を設置した者」に形式的に該当したとして取り扱われる場合であって、その外部環境の変化後に、衛星放送を受信しているという受信実態がある場合は、当該受信者は衛星契約を締結しなければならないということは当然のことである。しかしながら、こうした外部環境の変化後においても、衛星放送を受信していないという受信実態に変化がないにもかかわらず、外部環境の変化のみによって、追加的な負担を伴う衛星契約を締結しなければならないことは不適当との主張は、社会通念上、一定の合理性を持つものと考えられる。
そのような衛星放送を受信できる住環境の変化やケーブルテレビシステムの高度化などの外部環境の変化によって、自動的に受信規約上の「衛星放送を受信できる受信機を設置した者」に形式的に該当したとして取り扱われる者について、外部環境の変化後においても、衛星放送を受信していないという受信実態に変化がない場合、衛星契約ではなく、従前の地上契約を継続することができるよう受信規約の改正等の適切な措置が講じられるべきである。
参考:公平負担のための受信料体系の現状と課題に関する研究会「取りまとめ」(総務省:pdf形式)