主食用ではないイネの生産が増えています。県内でも、稲敷市や水戸市、大洗町で、家畜の飼料用のイネの生産が行われています。
家畜の飼料とするためのイネは、①「もみ」だけでなく、葉や茎など、植物全体を飼料として利用します。②通常は、「ホールクロップサイレージ」に調製して家畜に与えます。サイレージとは、飼料となる作物を収穫後に、水分を適度に含んだ状態で密封して空気の流通を遮断し、酸素が入らない状態で発酵させて調製した飼料をいいます。含まれる糖分から発酵により「乳酸」ができ、これにより飼料が酸性となって雑菌の繁殖が抑えられて保存性が格段に良くなるとともに、独特の香りが生まれるため、家畜の嗜好性も高まります。「ホール(Whole)」とは全体という意味で、「クロップ(Crop)」は作物を意味します。イネの実だけ、あるいは葉だけでなく、作物全体を利用して作るサイレージを「ホールクロップサイレージ」といいます。③「コシヒカリ」など食用の品種も飼料用にできますが、できるだけ茎や葉の部分も多く収穫したいため、通常は飼料専用の品種を用います。
昨年(2007年)国は、コメ余りの現状を踏まえて、補正予算で500億円の緊急対策を取りまとめました。主食用米以外への転作を促すため、●大豆、麦、飼料作物の作付け(生産調整拡大分)に10アール当たり5万円(07年産米の非協力者は3万円)、●非主食用米低コスト生産技術確立試験を行う農家に10アール当たり5万円、の「一時金(踏切料)」を支払うことを決めましたた。それぞれ5年と3年にわたって取り組む契約を結ぶことが要件です。
こうした国の政策も追い風となって、飼料用イネの栽培は注目を浴びています。
1月29日付の朝日新聞(第2茨城版)「農力」の特集には、稲敷市での事例が紹介され、井手よしひろ県議も早速、県農林水産部よりヒアリングを行うと共に、稲敷市(旧東村上之島地区)の現状を現地調査しました。
茨城県が07年産米の過剰作付けで、来年度は生産調整面積増のペナルティーを科せられたことや、国補助金の交付、輸入飼料の高騰によって価格競争力を生まれてきたことなど、飼料用稲の栽培にはプラス面もあります。
反面、「ホールクロップサイレージ」を作るための機械設備が高額であることや飼料用イネの刈り取りを委託する専門業者が不足していること。更に、飼料を購入する畜産農家自体が減少していることなど課題も多いことが実感できました。(地図は、稲敷市上之島地区)
飼料用イネ、高まるニーズ
朝日新聞(2008年01月29日付)
近年急速に増えている飼料用イネの栽培が、来年度はさらに広がりそうだ。茨城県が07年産米の過剰作付けで来年度に生産調整(減反)面積増のペナルティーを科せられたことに加え、非主食用米の栽培を拡大する農家に新たな補助金が交付されることになったからだ。だが、飼料用イネを刈り取る専門業者が足りない現状がある。県内で早くから飼料用イネを生産してきた稲敷市の現場を訪ねた。
同市旧東町地区では農家54人が計60ヘクタールの休耕田に飼料用イネを作付け、安定した収入を得ている。「麦や落花生に挑戦したが、品質がよくなかった。飼料イネなら水田を維持できる」と話す矢崎茂光さん(59)は、99年に中央農業総合研究センター(つくば市)の指導で試験栽培を始めた。
当初は周辺農家から「誇りを捨てて牛に食わせるコメを作るなんて」と批判された。だが、初期投資がいらず、刈り取りは専門業者が担うなど、経費や労力を考えると効率がいいと実証できた。矢崎さんは翌年、仲間12人に呼びかけて「稲敷農協低コスト部会」を結成、軌道に乗せた。常陸大宮市の牧場へ一括納入している。
国は昨年末、コメ余りの現状を踏まえ、補正予算で総額500億円の水田対策費を計上。その中で、今後5年間引き続き麦や大豆、飼料用作物を栽培する農家に10アール当たり5万円を助成することを決めた。
本来の稲作と比べると収入は少ないが、国の助成金や畜産農家への販売代金の収入で刈り取り業者への支払いが賄えるため、労力を考えれば高齢農家にとっては魅力のようだ。
輸入した飼料用イネの高騰で国産の需要が増えていることや、茨城では減反面積が拡大するペナルティーなども、農家を飼料用イネの生産へと駆り立てる。
ただ、ニーズの割に刈り取り業者は足りない。飼料用イネを刈り取って塊にしていくコンバイン型牧草収穫梱包(こん・ぽう)機は一式2千万円前後。一農家が購入するには負担が大きいため、専門の刈り取りに委託せざるをえないのが一般的だ。
稲敷市には専門業者が2人おり、その1人で元畜産農家の大久保健次さんは「牛が食べやすいように刈り取って梱包(こん・ぽう)する技術が必要で、現在県内には10人ほどしかいない。飼料用イネの普及には刈り取り業者の養成が急務だ」と話す。