「不同意ありき」の民主党は無責任だ(日経社説)
「国民生活」より「政局」第一の民主党――。3月19日に任期満了となる日銀正副総裁人事をめぐる対応で、民主党の無責任な姿勢に批判が集まっています。
3月12日、参院は政府が提示した武藤敏郎副総裁の総裁昇格などを民主党など野党の反対多数で不同意としました。
しかし、民主党が11日に不同意の方針を決めた理由がはっきりせず、マスコミからも「今回の不同意方針に福田(康夫)首相を追い詰めようとの政局絡みの思惑が(民主党に)感じられる」(12日付「朝日」)などと指摘されています。
正副総裁候補者が国会で所信を述べたのは11日のこと。民主党が時を置かずに不同意を決めたのでは、「初めから不同意ありき」だったと言わざるを得ず、「これが責任ある政党の対応なのだろうか」(12日付「日経」)との批判は当然です。
また、民主党は武藤氏昇格に不同意の理由として、金融政策が財政政策に影響を受けない「財金分離論」の原則を挙げました。財務省出身の武藤氏では、金融政策が財務省寄りに歪められるというが、財務省幹部が中央銀行総裁に就任することなど欧米では珍しくありません。
大事なのは、武藤氏の出身がどこかではなく、日銀総裁として手腕を備えているかどうかです。民主党の主張は、「政府が最終的に任命責任を負う重い人事を覆すほどの説得力があるとは思えない」(12日付「朝日」)のです。
日銀総裁は、日本の金融政策のかじ取りを担う司令塔です。その人選には慎重に協議を行うことが必要であり、“政争の具”とすることは断じて許されません。政局絡みで日銀総裁人事を捉える民主党の姿勢は「『国益』よりも『党益』を優先させた論外の沙汰と呼ぶ他はない」(櫻田淳・東洋学園大准教授、12日付「産経」)。参院第1党としての責任を民主党は肝に銘じるべきです。(公明新聞2008/3/13付け記事を参考に再構成しました)
日銀総裁人事―腑に落ちぬ不同意の理由
朝日新聞社説(2008/3/12)
野党とはいえ、目指す政策がある以上、それにそぐわない人事に反対するのは理のないことではない。
だが、ことは日本の金融政策の司令塔をだれにするかという問題だ。民主党の反対理由を聞いても、政府が最終的に任命責任を負う重い人事を覆すほどの説得力があるとは思えない。
国会の所信聴取で、武藤氏は日銀の独立性の確保を明快な言葉で語ったし、副総裁としての5年間にそれを疑わせるような言動はうかがえなかった。金利政策にしても、福井総裁の下でのことであり、基本的にはデフレ脱却のためのやむを得ない策だったと私たちは考える。
さらに腑(ふ)に落ちないのは、今回の不同意方針に福田首相を追い詰めようとの政局絡みの思惑が感じられることだ。
このまま突き進めば、民主党も返り血を浴びかねない。円高と株安が連鎖的に続く不安定な経済情勢を見れば、日銀総裁人事が混迷するマイナスは大きい。まして空席になるとすれば、首相の責任だけでなく、民主党も責めを負わねばなるまい。
むしろ、国民の多くが野党に期待するものは別のところにあるのではないか。それはガソリン暫定税率や道路特定財源の固い岩盤に穴をあけ、納得できる修正案をまとめることだ。
民主党が主導権を握る参院に舞台が移ったいまこそ、徹底的に政府与党に論戦を挑み、存在感を見せるべきだ。そう感じる人は少なくないはずだ。
もう一度、民主党に問いたい。ここが政権とことを構える勝負どころなのか。大局的な判断をすべき時だ。
日銀総裁人事 政治不況の引き金引くな
産経新聞社説(2008/3/12)
武藤氏も所信聴取の中で、米国の低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)問題などを背景とした厳しい内外経済の現状を分析した上で、国民、市場との対話と日銀の独立性確保を強調した。妥当な認識だ。
仮に「総裁空白」という異常事態になれば、それこそ中央銀行が政争の具にされたとして日銀の独立性は決定的に揺らぐ。そして国際社会や市場の信認を失うことになる。
それは急速に進む円高、株安に拍車をかけよう。すでに現在の水準でも3月期決算への影響が懸念されているのに、さらに市場が混乱すれば、企業の設備投資意欲と個人消費を冷やすのは確実だ。そうなれば、まさに“政治不況”につながりかねない。
にもかかわらず、民主党などの質疑はバブル経済と日銀の責任、デフレスパイラル時の国債買い入れなど過去の政策が中心で、混迷する総裁人事が与える日本経済への悪影響に対する自覚はみられなかった。伊藤隆敏氏の副総裁不同意も理由が不明確だ。
なにがなんでも、政府・与党を窮地に立たせたいという民主党の行動原理には、世論もついていけまい。参院本会議での採決前に再考を求めたい。
「不同意ありき」の民主党は無責任だ
日本経済新聞(2008/3/12)
カギを握る民主党は「財政と金融政策の分離」を理由にして、「武藤総裁」に反対する方針を決めた。所信聴取の前から、民主党内は反対論が大勢を占めていた。初めから不同意ありきでは、新ルールが生かされない。これが責任ある政党の対応なのだろうか。極めて遺憾である。(中略)
また財務省幹部経験者が中央銀行総裁に就任することは、米欧でも珍しくない。日銀が金融政策の独立性を保つことと、政府と連携することとは必ずしも矛盾しない。
民主党の「財金分離論」は結局、武藤氏が財務次官経験者だからふさわしくないと言っているようにしか聞こえない。不同意にするなら、もっと説得力のある説明が要る。