12月10日、公明党の農林水産部会(部会長・石田祝稔衆院議員)は、赤松広隆農林水産大臣に対して、政府が進めている農家の戸別所得補償制度と来年度の税制改正について、政策提言を書を提出しました。
来年度からモデル事業として導入されようとしているコメの戸別所得補償制度や水田利活用自給力向上事業に関しは、事業の詳細が未だ明確になっておらず、農家の不安が高まっています。また、生産調整(減反)に参加したコメ農家に生産費と販売価格の差額を全国一律の基準で補てんするというモデル事業に対し、生産費の一部として8割しか評価されないことになっているなど、農家の収入下落に十分に対応できる制度とはなっていません。また、せっかく集約化が進んできた現状に対して、集落組織を崩壊させかけない危険性を秘めています。
こうした現状を重視し、1.戸別所得補償について抜本的に見直すこと、2.水田利活用自給力向上事業を抜本的に見直し、新規需要米と麦、大豆等への助成水準の公平性と転作メリットを確保すること、3.凍結・削減された予算について早急に取組みを再検討し2次補正等において予算確保し、早期に実施すること、4.農業が目指すべき中長期ビジョンを示すこと、の4点を具体的に求めています。
また、税制改正についても、「農漁業用A重油の免税・還付措置を延長すること」など8項目について提言を行いました。以下、その全文を掲載します。
平成22年度予算編成および、税制改正に関する農業政策提言
2009年12月10日
農林水産大臣 赤松 広隆 殿公明党 農林水産部会
部会長 石田 祝稔
部会長 石田 祝稔
来年の営農計画を立てる時期になっても、農業政策についてその全貌が明らかにされず、生産者から戸惑いと不安の声が上がっている。特に水田転作作物について現段階で示されている制度設計では、これまで麦、大豆、そばなど転作作物の生産拡大をしてきた地域に対する助成金が大幅に減ることが想定される。その結果、集落営農からの離脱を表明する農家も現れ始め、営農計画を立てることが出来ないまま年末を迎えている生産地も多い。
予算編成過程において、生産現場に多大な混乱を生じさせていることは、鳩山政権の政策決定力のなさを露呈していると言わざるを得ない。
本年2月に実施された農業構造動態調査において、販売金額が100万円以下の販売農家が約6割を占めるなかで、主業農家は500万円以上の農家数が年々増加し、そのなかでも700万円以上が43%強を占めている。しかし、主業農家数は前年から5.5%減少しており、担い手の減少が危機的状況であることが明らかになった。今、農村は農地を集積する担い手を待望しており、その絶対的不足を解消することが急務である。
認定農業者の育成、集落営農の推進など担い手確保・育成対策の強化が欠かせないが、戸別所得補償と水田利活用自給力向上事業は、担い手不足を解消できないばかりか集落組織を崩壊させかねないものである。地域ごとで麦、大豆、そばなど転作作物として独自に生産拡大に取組んできた努力が報われない制度では、鳩山政権が掲げた「自給率の向上」は砂上の楼閣となることは明らかである。
食料自給率の向上という政策目標を達成するには、国内自給率の低い主要作物を中心に二毛作を進め、耕地利用率を向上させるなど自給力を向上させることが必要である。
また、1次補正予算を凍結しておきながら追加経済対策を打ち出し、事業仕分けの結果、今後の実施が不透明な事業をいたずらに増やした3か月間の行政の空白は、農山漁村に甚大な影響を与えただけであり国民の期待に応えるものではない。
公明党農林水産部会は、鳩山政権に対し、我が国の農業がどうあるべきかというビジョンを生産者ならびに消費者に早期に示すことを求めるとともに、農業を我が国の成長産業とすべく以下のとおり平成22 年度予算及び税制改正について提言する。
■予算について■
1,戸別所得補償については、抜本的に見直しを行うこと
・ 農地の集積や大規模化に努めてきた認定農業者や集落営農など担い手の経営努力に報いる制度に改めること
・ これまで生産調整に真摯に取り組んできた地方に十分配慮すること
・ 中山間地などの条件不利地域に対して直接支払の加算措置を講じること
・ 農家が今受けている支援を下回らない制度を設計すること
・ 農政転換によって生じる恐れのある生産過剰対策を実施すること
2,水田利活用自給力向上事業を抜本的に見直し、新規需要米と麦、大豆等への助成水準の公平性と転作メリットを確保すること
・ 産地確立交付金の継続をし、地域が自主的な裁量を発揮できる制度を導入すること
・ 麦、大豆等転作作物への支援は現行額を確保すること
・ 新規需要米の需要増が見込めない分の予算を地域振興作物に上乗せできるようにすること
・ 当面は、生産調整の達成の義務付けをはずさないこと
3,凍結・削減された予算について早急に取り組みを再検討し2次補正等において予算確保し、早期に実施すること
・ 凍結された1次補正予算のうち、森林整備事業や耕作放棄地対策など必要性が高い事業について十分な予算措置を行うこと
・ 鳥獣被害防止対策等、事業仕分けにおいて「自治体の判断」とされた全ての事業について、自治体が円滑な実施を出来るように財源等十分な手当を行うこと
・ 事業仕分けで「廃止」とされた事業でも、森林整備モデル事業など、必要性の高い事業については一般事業として予算確保すること
・ 事業仕分けで見直された以外の、全てのモデル事業について見直しを行うこと
・ 1次補正の凍結や事業仕分けによって返納とされた基金事業について、毎年度の必要額を確保すること
4,農業が目指すべき中長期ビジョンを示すこと
・ 国際的な貿易のルールが一層自由化に向けて進む中でどのように競争力ある日本の農林水産業を育てていくのか示すこと
・ 農業の担い手を明確に位置づけ、担い手対策を充実させること
・ 農地の面的集積を促進し、集落営農支援を充実させること
・ 生産調整の都府県間融通システムを推進すること
・ 農産物の輸出促進対策を強化すること
□税制について□
平成22年度税制改正については、税制調査会において議論されているところではあるが、農林水産業の発展にとって重大な影響を及ぼす事項について未だに結論が下されず、関係者に不安が募っている。
平成23年度以降の重要検討項目も含めて、特に今年度で特例措置の期限を迎える農漁業用A重油の免税措置延長等、以下8項目について提言する。
1.農漁業用A重油の免税・還付措置を延長すること
2.農業用・漁業用軽油免税制度を延長すること
3.家畜排せつ物の管理の適正化及び、利用の促進に関する法律に基づく管理施設に係る課税標準の特例措置を延長すること
4.農産物及び水産物直売所の設置に係る税制上の特例措置を講じること
5.海外投資等損失準備金制度を継続すること
6.林業経営の継続を確保するために、林地の相続についても農地に準じた納税猶予制度を導入すること
7.市街化区域内の生産緑地の規摸要件の緩和
・生産緑地の使途条件等を厳格にすることを前提に、生産緑地法第3条の「500平方メートル以上」とある基準の緩和・引き下げを行うこと
8.農地の相続税納税猶予の条件緩和
・ 現行の納税猶予制度の継続が認められる身体障害の判定基準が現実的ではないことから、ガンにり患した場合など、実質的に営農困難の場合もこれに含めること